N:陽世のナレーション
シーン0 プロローグ
「……」
× × ×
「来週、俊哉君が来るのよ?それなのに入院?試合の応援は?ここに泊める約束は!?」
「私が嘘つきになるじゃない!」
「どうして今のままじゃいけないの!?私まだ元気だよ!?入院する必要なんてないじゃない!ここだって病院なのに……私、入院してる姿なんか見せたくない!」
「(悪戯笑い)……なんてね。気にしないで。ちょっと困らせて楽しんだだけ。どうせアンタの約束なんてアテにしてなかったから」
「じゃ、私、入院の準備するから」
シーン4 坂本診療所・診察室
「え?」
「!?」
「……」
シーン6 同・診察室
「?」
「うん……(うれしい)」
シーン8 同・表
「何?」
「……ありがとう」
「はい」
「(思わず窓を開け)いってきます!」
シーン9 タクシー(車内)
N「私はこの日、大沢病院へ入院した」
シーン12 大沢病院・ロビー
「(ペコリと頭を下げ)よろしくお願いします」
「はい」
「はい」
「よろしくお願いします」
シーン13 同・陽世の病室
「はい……」
N「東京に来て三つ目の私の部屋。でも……」
「(微笑む)……」
N「この部屋だけは好きになれない……」
シーン22 一海のマンション
回想。
「……もう絵はやめたの」
シーン35 大沢病院・陽世の病室/坂本診療所・診察室
「あっ!(微笑み)ソラねェ、(言いかけて)……」
「うん……」
「大丈夫……あ、あの」
「たくさん、ありがとう」
―ちょっと沈黙。
「あのね……担当、美美さんになった」
「それから」
「お弁当、おいしかったって、新さんに」
「それから……」
「あの……」
「(何かしゃべりたいが言葉がみつからない)……」
「?」
「うん……」
「……」
―淋しい。
シーン37 大沢病院・陽世の病院
「はい……」
「一海さん……(笑顔になる)」
「……はい」
「……」
「……(画集を開く)」
「―はい」
「……」
「……」
「はい」
「(画集の絵に見入っていく)……」
「……」
「……」
「……」
「え?」
「はい。私、聞きたい……」
「はい」
「……」
「はい」
「……」
「はい」
「はい」
「(思わず笑う)私……この本……すごくうれしい」
「ありがとうございます」
「私も、たくさん旅がしたい。絵も……描きたいです」
「(画集みながら)こんなにステキな色使えたらいいですね」
「だと、いいなあ」
「(テレながら)何か、元気……出てきちゃった」
「はい。私も(声を小さくテレながら、でも)オネエマみたいに、ヨーロッパいくの、夢なんです」
「小さい頃、よくパパが話してました。一番上のお姉さんは、パリにいてねって」
「一人でがんばってるんだよって」
「パパ、いつも、“何もしてやれないなあ”って言ってました。“でもあの子は甘えてこないんだよ”って」
「はい。だから私が大きくなったら、いつかお姉さんのところにいったらいいって。そしたら、僕も一緒にフランスにいけて、一海さんとお話出来るからって」
「パパ……絵書きさんになりたかった時があった、って」
「ヨーロッパのステキな話、たくさん聞きました」
「だから……パパはもう行けないけど……私、ヨーロッパで絵の勉強出来たらいいな、なんて」
「夢ですけど、少しでもホントになるように、私、がんばります」
「ありがとうございました」
「え?」
「言って悪かったですか?」
「……はい」
「はい……」
「あの」
「……また来てくれますよね?」
「はい!」
シーン49 陽世の病室(夜)
「オネエマ……ソラねえ……リクねえ……美美ねえ……」
N「いつになったら、直接顔を見て呼べるんだろう」
シーン53 坂本診療所・診察室(翌日)
N「仙道光一さん……ソラねえが昔つき合っていた人……」
N「十二年ぶりの再会だったそうです」
―つづく
(マリア台本より)